• AGCが変えたもの

    PROJECT 02

    スマホのフラッグシップ
    モデルに照準
    薄くても割れにくいガラス
    『Dragontrail®

  • 小池 章夫小池 章夫
    小池 章夫
    Akio Koike
    技術本部 商品開発研究所
    価値創造グループ
    スマートコミュニティチーム
    リーダー (工学博士)
    1998年入社/工学部無機材料工学科修了
    入社後、船橋工場で1年間の工場実習を経て、6年間中央研究所(現:商品開発研究所)で新ガラスの開発に取り組む。2004年から2年間、米国へ留学。2006年に帰国し、再び中央研究所へ。その後、生産技術センター(現:先端技術研究所)を経て2013年、ガラス新商品のマーケティングおよび営業に携わる。2016年より現職。本プロジェクトでは、材料開発担当リーダーを務めた。
  • 原口 孝平原口 孝平
    原口 孝平
    Kohei Haraguchi
    龙8国际娱乐官方老虎机カンパニー
    先進機能ガラス事業本部
    龙8国际娱乐官方老虎机用ガラス事業部 営業部
    本社営業グループ マネージャー
    2011年中途入社/理工学部卒
    入社してから一貫して、ソーラー、産業用ガラス部門における営業・マーケティングに携わる。前職にて中国・清華大学への留学や駐在経験があったことから本プロジェクトにアサインされ、30代前後の国籍が多様なメンバーとマネジメントとの橋渡し役を務めた。
  • 前田 枝里子前田 枝里子
    前田 枝里子
    Eriko Maeda
    技術本部 商品開発研究所
    新商品第1グループ 先進ガラスチーム
    2014年入社/理学研究科修了
    入社後は遮熱ガラス、龙8国际娱乐官方老虎机部材ガラスの組成開発に携わる。以前より開発の仕事を希望しており、組成設計の経験を買われて本プロジェクトにアサインされた。商品特性を満たす組成の開発と、量産時の組成管理、製造時を模擬したラボ試験の確立の検討などを担当。
  • ※所属部署は取材当時のものです。
  • Chapter01

    次世代ガラスの登場を願う市場の声

    スマートフォンはいまや、大半の若者が使っていることだろう。便利で手放せないスマホだが、弱点もある。経験者もいるだろうが、落とすと表面のカバーガラスが割れることがある点だ。ガラスは素材自体に伸縮する性質がほとんどないため、衝撃やたわみによって割れてしまい、スマホの画面が見にくくなってしまう。
    AGCはこの課題解決のため10年近く前から、薄くても割れにくいガラスの開発に挑んできた。2012年以降、カバーガラス用に『Dragontrail®(ドラゴントレイル)』シリーズを上市し、スマホに採用されているが、より割れにくいガラスが求められるようになっていった。本プロジェクトに材料開発担当リーダーとしてアサインされた小池章夫が背景を説明する。「新商品開発が進む市場では次世代ガラスが強く求められるようになりつつありました。特にスマホメーカーにとって最新上位機種となるフラッグシップモデルでは、より強度に優れるガラスへのニーズが高まっており、商品開発研究所(以下:研究所)と事業部の間で、次世代ガラス開発の検討を進めていました」。
    そして2016年より本プロジェクトが本格稼働する。研究所からは20代後半から30代前半の若手がアサインされ、事業部、製造部門が三位一体となって開発がスタートした。薄くても割れにくいガラスを開発するには、従来から化学強化と呼ばれる処理が行われている。1960年代に発明された技術である。ガラスを約400度の硝酸カリウムの溶融塩槽に浸けると、ガラス表面の小さなNa+イオンが大きなK+イオンが入れ替わる(イオン交換法)。これにより、ガラス表面に圧縮応力層が形成され、割れにくいガラスができるのである。「本プロジェクトでは、これまでとは違う切り口でより高強度なガラスを目指すべく、ガラスの組成設計を行いました」(小池)。
    だが、そのことが新たな問題を生んだ。
    Chapter01Chapter01
  • Chapter02

    この精鋭がいるなら、
    競合に勝てないわけがない

    強化ガラスのビジネスは、他のガラス製品と大きく異なる点がある。ガラス納入時は素ガラスの状態で、強化方法の“推奨レシピ”もあわせて提案し、お客さまがレシピを参考に強化ガラスにするのである。強化ガラスの状態で提供すると加工できないためだが、ガラスが変わるとお客さまが実際に素ガラスを強化ガラスに加工・評価する手法も変わるため、お客さまが確実に加工・評価できる技術の構築が不可欠だったのである。
    「研究所では高強度化のために複数の技術が開発されていましたが、商品への応用は一部に限られていました。真に強いガラスを実現するには、ガラス内部の深い領域まで化学強化する必要がありますが、深すぎると強化の反作用で割れた際に粉々になってしまい、化学強化には限界があったのです」(小池)。
    そこで2017年、製造の限界を見極めるため、製造現場で繰り返し試験を実施した。さらなる高強度化のために避けては通れないプロセスなのだが、事業部からは「一刻も早く立ち上げてほしい。サンプル出荷を急ぎたい」との声が高まっていた。小池が振り返る。「プレッシャーを感じましたが、やるしかない。やればできる。その思いで必死になってスピードアップさせました」。
    2017年の春過ぎにはサンプル出荷が始まった。だが、バージョンアップした今回の『Dragontrail®』は、名前は従来と同じでもガラスの組成がまったく違う。そのため、お客さまサイドでスムーズには加工・評価ができず、開発部門がお客さまの工場に何度も足を運んで徹底フォローしていった。
    2017年12月、営業・マーケティング担当として原口孝平がアサインされた。新『Dragontrail®』の上市が視野に入ってきたためだが、「今から営業攻勢をかけていけということでしたが、私がアサインされたところでそれほど貢献できないと、最初は自信がありませんでした」。
    自信を持てなかった理由は、目指す有望市場の一つは中国だが、そこではすでにAGCと並び、高強度ガラスを持つ競合メーカーが優位に立っていたためだ。
    「ただ、その1ヵ月後の2018年1月、中国へ出張して、これだけ精鋭揃いなら競合に勝てないわけがないと直感しました。チームのスタッフは皆優秀で仕事熱心。技術陣も昼夜を分かたずお客さまのところへ足を運んで加工・評価のアドバイスをしていました。自分がすべきことは、本当に勝てると信じ、小さな成功体験を共有しながらチームとして“勝てる”と確信させていくこと。どんな時もネガティブな発想にならないよう自分に言い聞かせ、チームを盛り上げていきました」(原口)。
    原口は北京、上海、深圳などを精力的に回った。久しぶりに見る中国は、メディアで報道される通り、活気に満ちていた。特に毎週のように飛んだ深圳のビジネス街を闊歩するのは、いずれも20代30代とおぼしき、若きビジネスパーソンだった。「彼らに刺激され、私も全力を注ぎ込んでいきました。現地・現場から上げられる声は、イコールお客さまの声であり宝です。精力的に動く若いスタッフの報告に感謝しつつ、本社へは龙8国际娱乐官方老虎机の重要度や緊急度を勘案して、経営幹部に正確に伝えていきました」。
    距離が遠く、言語も異なる現地の状況をいかに迅速かつ正確に、臨場感を持って伝えるかが、経営判断を左右する。若いスタッフが上げる悪い龙8国际娱乐官方老虎机にも積極的に耳を傾け、原口は的確に本社へ伝えていった。
    Chapter02Chapter02
  • Chapter03

    割れないガラスを目指し、
    AGCの挑戦は続く

    2018年4月には前田枝里子がアサインされた。入社以来、一貫してガラスの組成開発に関わってきたキャリアが買われてのことだった。そしてそのキャリアは、実際に商品化への大きな力となった。「アサイン直後に要求されたのが、より高い落下特性、つまり従来以上の高さからスマホを落としても割れないガラス組成の提案でした。ただ、異動直後ということもあって、すぐにはアイデアが浮かびませんでした」と前田は当時を語る。
    そこで前田は、これまでの開発の流れを確認しつつ、得られた知見の確認や問題点などを把握し、必要に応じて開発陣へのヒアリングを行った。ラボの小さなスケールでは、より高強度の『Dragontrail®』の生産が確認できたが、量産化となるとまた別の話になる。そのため、より緻密な組成設計や製造時を想定したラボ試験の確立が前田のミッションだった。
    「より強く、より薄くが大前提で、それ以外にも耐薬品性、耐摩耗性など複数の要求がありますから、すべての要求を満たす組成設計は簡単ではありませんでした。同時にスピード感も求められ、リズムに合わせるのが大変でした」(前田)。
    だが、難しいミッションを成功させた前田をはじめ、開発陣や営業・マーケティングチームの健闘により、周囲の空気が一変した。「海外トップブランドのフラッグシップモデルに、AGCの新しい『Dragontrail®』の採用が決まったのです。それまでミドルエンドの機種や日系メーカーでの採用はありましたが、トップクラスのフラッグシップモデルでの採用は初めてで、チームとしても私自身も、漠然と捉えていた可能性が確信に変わりました。スマホメーカーは年に2回、フラッグシップモデルを発表しますが、そこに採用されるということは市場でその性能が認められたことを意味します。技術では絶対に負けていないという思いが実った瞬間でした。しかもそのトップブランドから次世代ガラスも一緒にやろうと、ありがたいお言葉を頂戴しています」と原口は話す。
    フラッグシップモデル搭載を目指した新『Dragontrail®』はスマホの画面として市場に広がっていくが、割れないガラスへのAGCの挑戦はさらに続く。材料開発を率いた小池は次世代ガラスについてこう話す。
    「この分野では競合も開発に力を入れていますが、AGCはさらに先を行っている自負があります。より強いガラスでAGCの存在感を世界に示すとともに、技術者としてはガラスの割れる現象を制御し、本当に割れない次々世代ガラスを実現したい」。
    25年以上前に入社した新入社員は、当時は非常識だった「曲がるガラス」を思い描き、AGCはその夢を実現してしまった。「薄くても割れないガラス」も、AGCは実現してしまうかもしれない──
    Chapter03Chapter03